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3−19 少しの嘘

last update 最終更新日: 2025-08-07 19:42:33

――16時

ようやく2人の写真撮影が終わり、早く写真がみたいジェニファーは店主に尋ねた。

「すみません。写真はいつ出来上がりますか?」

「そうですねぇ……10日もあれば引き渡しできます」

「え!? 写真の出来上がりって10日もかかるんですか!?」

予想もしていなかった日数にジェニファーは驚きの声を上げてしまった。

「申し訳ございません。これでも以前に比べれば、大分日数が早くなったのですけど……」

店主が申し訳無さそうに謝ると、ニコラスがジェニファーに声をかけてきた。

「ジェニファー。もしかして写真がどの位で出来上がるか知らなかったの?」

「え? ええ……知らなかったわ」

「それじゃ、写真を撮ったのは初めてだったの?」

「そ、そんなことないわ。前も撮ったことがあるけれど、そのときはあまり写真が気にならなかったからなの」

ジェニーが写真を撮ったことがある話を思い出し、必死で言い訳をするジェニファー。

「そうだったんだ。でも今は興味を持ったということなんだね?」

「それは勿論。ニコラスと一緒に写真を撮ったからよ」

「そう言って貰えると嬉しいな。僕も10日後が待ち遠しいよ」

ニコラスは笑顔でうなずくと、次に店主に金貨4枚を差し出した。

「写真代です、お願いします」

「はい、まいどありがとうございます」

ニコラスが金貨を払う姿を見て、ジェニファーは驚いた。

「待って! ニコラス、写真なら自分で払うわ!」

「駄目だよ。 僕が払うよ、ジェニーにプレゼントさせてよ」

「私に……? あ、ありがとう……」

プレゼントという言葉にジェニファーは嬉しくなり、顔がつい赤くなる。

「うん、プレゼントだよ。それじゃ、行こう」

ニコラスの言葉にジェニファーは頷くと、3人揃って写真屋を後にした――

****

「ニコラス、私もう帰らないと」

写真屋を出るとすぐにジェニファーはニコラスに声をかけた。

「え? 今日もなの?」

「ええ、遅くなると心配されてしまうから」

「そうなんだ……もう少し一緒にいられると思ったのに、残念だな。でも明日も会えるよね?」

「う、うん。勿論会えるわ」

「また明日も1人で町に出てくるつもりですか?」

するとシドがジェニファーに尋ねてきた。

「え? そうだけど……」

「1人で出掛けるのは危ないのではありませんか? 現に今日、危険な目に遭いましたよね?」

「あ……」

その言葉に、
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    ――16時ようやく2人の写真撮影が終わり、早く写真がみたいジェニファーは店主に尋ねた。「すみません。写真はいつ出来上がりますか?」「そうですねぇ……10日もあれば引き渡しできます」「え!? 写真の出来上がりって10日もかかるんですか!?」予想もしていなかった日数にジェニファーは驚きの声を上げてしまった。「申し訳ございません。これでも以前に比べれば、大分日数が早くなったのですけど……」店主が申し訳無さそうに謝ると、ニコラスがジェニファーに声をかけてきた。「ジェニファー。もしかして写真がどの位で出来上がるか知らなかったの?」「え? ええ……知らなかったわ」「それじゃ、写真を撮ったのは初めてだったの?」「そ、そんなことないわ。前も撮ったことがあるけれど、そのときはあまり写真が気にならなかったからなの」ジェニーが写真を撮ったことがある話を思い出し、必死で言い訳をするジェニファー。「そうだったんだ。でも今は興味を持ったということなんだね?」「それは勿論。ニコラスと一緒に写真を撮ったからよ」「そう言って貰えると嬉しいな。僕も10日後が待ち遠しいよ」ニコラスは笑顔でうなずくと、次に店主に金貨4枚を差し出した。「写真代です、お願いします」「はい、まいどありがとうございます」ニコラスが金貨を払う姿を見て、ジェニファーは驚いた。「待って! ニコラス、写真なら自分で払うわ!」「駄目だよ。 僕が払うよ、ジェニーにプレゼントさせてよ」「私に……? あ、ありがとう……」プレゼントという言葉にジェニファーは嬉しくなり、顔がつい赤くなる。「うん、プレゼントだよ。それじゃ、行こう」ニコラスの言葉にジェニファーは頷くと、3人揃って写真屋を後にした――****「ニコラス、私もう帰らないと」写真屋を出るとすぐにジェニファーはニコラスに声をかけた。「え? 今日もなの?」「ええ、遅くなると心配されてしまうから」「そうなんだ……もう少し一緒にいられると思ったのに、残念だな。でも明日も会えるよね?」「う、うん。勿論会えるわ」「また明日も1人で町に出てくるつもりですか?」するとシドがジェニファーに尋ねてきた。「え? そうだけど……」「1人で出掛けるのは危ないのではありませんか? 現に今日、危険な目に遭いましたよね?」「あ……」その言葉に、

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     メイドから手当を受けたジェニファーは、早速明日も外出して良いか尋ねることにした。「あのね、ジェニー。実は明日もニコラスと会う約束をしてしまったのだけど……出掛けて良いかしら?」「え!? 明日も出掛けるつもりなの? それは駄目よ!」予想外の反対にあい、ジェニファーは焦った。「え? ど、どうして駄目なの?」「だってジェニファーは怪我をしているじゃない。最初は手だけかと思ったけど、足も怪我しているわ。それなのに出掛けては駄目よ。明日は家で私と一緒に過ごしましょう?」ジェニーはジェニファーの手を握りしめてきた。「だけど、ニコラスと約束してしまったのよ。明日も会いに行くって」するとジェニーが悲しそうな目で見つめてきた。「ジェニファーは……私と一緒に過ごすよりも、ニコラスと一緒に遊びたいの?」「そういうわけじゃないわ。ただ約束してしまったからなの。勝手に約束を破るわけにはいかないでしょう?」「待ち合わせ時間にジェニファーが来なければニコラスだって諦めて帰るはずよ」友達が1人もいたことのないジェニーは人付き合いとはどういうものなのか、良く理解していなかった。ジェニファーはすっかり困り果ててしまった。(どうしよう……約束を勝手に破ればニコラスは怒るに違いないわ)ニコラスに嫌われたくは無かったジェニファーに良い考えが浮かんだ。「ねぇ、聞いて。ジェニー。ニコラスは私のことをジェニーだと思っているの?」「そうだったわね。確か彼の前では私の名前を名乗っているのでしょう?」「そうよ。もし明日私が待ち合わせ場所に行かなければ、きっとニコラスは怒ると思うの。ジェニー、あなたのことを」「え……? 私のことを……?」「そうよ。だってニコラスは私がジェニファーだとは知らないのだもの。ひょっとするとジェニーが嫌われてしまうかもしれない」「私が嫌われる? それはいやよ!」激しく首を振るジェニー。「だったら、明日もニコラスに会いに行っていいでしょう? その代わりに2人で会ってどんなことをして過ごしたか全部報告するから」その言葉に少しの間、ジェニーは口を閉ざしていたが……。「……分かったわ、明日も出掛けてきていいわ。その代わり、条件があるの」「条件? 何かしら?」「あのね、私……ニコラスがどんな顔をしているか知りたいの。明日、町の写真屋さんで写真を撮っ

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